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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1420号 判決

主文

原判決中被告人小原一作、西山俊男、水口耕三、藤井政見に関する部分を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差し戻す。

被告人二宮了、伊藤十目次、二宮実の各上告を棄却する。

当審における訴訟費用中五分の三を被告人二宮了、伊藤十目次、二宮実の負担とする。

理由

被告人小原一作の弁護人三浦強一の上告趣意第一点は、原審が右被告人占有の船舶鳳凰丸の没収に関し、右船舶が船主三浦正徳の不知の間に密輸に使用されたとしても過失の責むべきものがないとはいえないという理由で一審の没収判決を維持したのは違法であるというのであり、また被告人西山俊男の弁護人高木尊之の上告趣意第一点は、原審が同被告人占有の船舶大安丸の没収に関し、同船舶が船主坂井誠一の不知の間に密輸に使用されたとしても過失がなかったとはいえないという理由で、一審判決を破棄して没収を附加したのは憲法二九条に反するというのである。

当裁判所大法廷の判例(昭和二六年(あ)一八九七号同三二年一一月二七日言渡)によれば、旧関税法八三条一項は、犯人以外の第三者の所有に属する同条所定の船舶でも、それが犯人の占有に係るものであれば右所有者の善意、悪意に関係なく、すべて無条件に没収すべき旨定めたものではなく、右所有者たる第三者が船舶について同条所定の犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知っており、その犯罪が行われた時から引きつづき右船舶を所有していた場合に没収できる趣旨に解すべきものであるというのであるから、所論指摘の原判断は違憲論に触れるまでもなく法令の解釈を誤ったものであり、この誤は判決に影響し、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。従って三浦弁護人の上告論旨第二点たる審理不尽の主張、高木弁護人の第二点たる事実誤認の主張、第三点たる量刑不当の主張、被告人西山俊男の量刑不当の主張につき判断するまでもなく、原判決は右両名に関する部分につき破棄を免れない。

被告人水口耕三の弁護人掴原隆一の上告趣意は量刑不当の主張、被告人藤井政見の弁護人竹内虎次郎、吾野金一郎の上告趣意は事実誤認、量刑不当の主張であって、上告適法の理由にならない。しかし、職権で調査すると第一審判決は右両名が共謀の上、相被告人二宮了らが法定の免許を受けることなしに沖縄方面よりの貨物の密輸入に使用することを知悉しながら、昭和二五年一二月中旬頃同人らのため相被告人中谷朝雄所有の太平丸の傭船を斡旋してその傭船契約を締結させ、右二宮らの行った無免許輸入未遂の犯行を容易ならしめてこれを幇助したとの公訴事実は、犯罪の証明がないとの理由で無罪としたのであるが、原判決は、右無免許輸入幇助は一審が有罪と認定した無免許輸出幇助と一航海における往路と復路との関係にあること、被告人水口の副検事に対する供述調書中に沖縄へ物資を輸出して戻りにはスクラップを積んで帰ることを知って斡旋した旨の記載があることの理由で検事控訴を容れ、事実誤認として一審判決を破棄してこの部分についても有罪の判決をしたのであるが、事実の取調としては被告人水口についてその前科調書の取調をしているに止まるのである。

当裁判所大法廷の判例(昭和二七年(あ)五八七七号同三一年九月二二日言渡刑集一〇巻九号一三九一頁)によれば、一審が証明なしとして無罪にしたものを控訴審が事実の取調をしないで訴訟記録及び一審で取り調べた証拠のみにより有罪判決をすることは刑訴四〇〇条但書の許さないところであるというのであって、本件では右のように密輸入幇助の点については事実の取調がないのであるから、仮令往路の密輸出幇助が認定されていても、復路の密輸入幇助まで直ちに認定することは刑訴四〇〇条但書の許さないところと解すべきである。そしてこの違法は判決に影響し、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

被告人二宮了及び弁護人本間大吉の上告趣意、被告人伊藤十目次の弁護人伊藤仁の上告趣意、被告人二宮実の弁護人鈴木惣三郎、勝部良吉の上告趣意は、何れも量刑不当の主張であって、上告適法の理由にならない。

よって刑訴四一一条一号、四一三条本文により原判決中被告人小原一作、西山俊男、水口耕三、藤井政見に関する部分を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻すこととし、刑訴四一四条、三九六条により被告人二宮了、伊藤十目次、二宮実の各上告を棄却することとし、刑訴一八一条一項により当審における訴訟費用はこれを五分し、その三を被告人二宮了、伊藤十目次、二宮実に負担させることとする。この判決中被告人水口耕三、藤井政見に関する部分についての裁判官垂水克己の原判決を破棄すべきでないとの少数意見は昭和三一年(あ)第三一八五号同三三年二月一一日第三小法廷判決に記載されたとおりであり、被告人西山俊男に関する部分についての裁判官小林俊三の第二審ではじめて没収を附加するような場合には、同じく事実の取調をしなければならないとの少数意見は、昭和三〇年(あ)一九八四号同三二年二月一五日大法廷判決(刑集一一巻二号七六七頁)に記載されたとおりであるから、夫々これを引用するほかは、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

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